『割れ窓理論による犯罪防止 コミュニティの安全をどう確保するか』 関連記事
G.L.ケリング・C.M.コールズ著/小宮信夫監訳/大塚 尚・青山彩子・千代延晃平・立崎正夫訳
定価2530円(税込)
2004年3月30日 読売国際経済懇談会=YIES=主催
ルドルフ・ジュリアーニ 米ニューヨーク前市長 講演
(省略)
小さな犯罪 見過ごさず
「破れ窓理論」。これが三つ目のポイントだ。
米国の失敗は、小さな犯罪を見過ごしてきたことにあった。様々な都市で殺人が頻発したため、警察組織は、例えば街角で麻薬の密売が行われていても、それには目をつぶり、もっと重大な犯罪に力を集中させようという意識に支配されるようになっていた。
これに対し、「破れ窓理論」では、社会をビルのようなものだと考える。
窓が一つ壊されたビルを見て、「一つくらいならいいだろう」と放置しておけば、窓は次々に壊され、やがてはビル全体が瓦解してしまう。それと同じように、小さな犯罪を見過ごして、その都市を、自分の「しゃば」だと犯罪者に思わせてはならない。そう思わせてしまったら、より重大な犯罪が横行することになる−−。
私は、この理論はニューヨークのような大都市でこそ有効だと考え、市警本部長に、まず「ストリート(街頭)レベル」の小犯罪を取り締まるよう指示した。
我々は、「窓ふき行為」をターゲットの一つにした。ニューヨークの街で車を止めると、「窓をふきましょう」と言って近づいてくるやからがいる。彼らは、断られると、ドライバーに「金をよこせ」と因縁をつけたり車を傷つけたりする。
放っておいてもいいのではないかという声も当初はあったが、我々が展開した大規模な撲滅作戦の結果、こうした行為に手を染めている人間の半数が、他の犯罪にも関与していることが分かり、警察官の士気も大いに上がったものだ。
「破れ窓理論」が重大犯罪の摘発につながった象徴的な事例がある。マンハッタンで女性が相次いで襲われた連続殺人事件がそれだ。この事件は、現場に残されていた指紋が、その約二か月前に地下鉄の無賃乗車で検挙された人物の指絞と一致したことから、犯人が特定され、解決に至った。もしも、無賃乗車を取り締まっていなかったら、現場の指紋は誰のものか分からず、第三、第四の殺人が起きた可能性があった。
小さな犯罪も取り締まるようにすることで、ある期間、刑務所の収監者数は増える。しかし、犯罪の発生率が下がってくれば、刑務所に入る人たちの数もおのずと減ってくる。ニューヨークのケースを振り返ってみても、最初の二年ほどは収監者が増えたが、やがて収監者の人数は減り、刑務所内での暴力事件もほとんどなくなった。
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読売新聞 2004年4月22日木曜日 12版17頁 より一部抜粋
目指す方向 日本も同じ
治安再生に成果を上げたニューヨークの取り組みを、日本の警察トップはどう受け止め、国内でどのような対策を進めようとしているのか。警察庁の佐藤英彦長官に聞いた。
ジュリアーニ前市長が手がけた治安再生策の本質は、「住み心地の良い街」をつくり出すことにあると私は解釈している。講演の中で何度も「犯罪を減らす」という言葉が出てくるが、それは暮らしやすい空間を市民に提供するということにほかならないと思う。
検挙に力を入れるだけでなく、起きる前に犯罪を防ぎ、犯罪を減らそうという考え方は、日本の地域社会に昔からあった「防犯」の発想だ。ただ、今の日本は、地域社会の人間関係が崩れたために、不道徳な行為は見逃さないという防犯機能を地域社会が果たせなくなり、治安悪化の一因になっている。だからこそ、ご近所同士の絆を太くしてほしいし、警察が住民と協力して犯罪抑止に取り組む必要がある。我々が昨年から全力で推進している犯罪抑止総合対策は、その積極展開と考えている。
そういう意味で、目指すべき方向はニューヨークも日本も同じであり、その理論的根拠として「破れ窓理論」は参考になる。
特に印象に残ったのは、小さな犯罪の取り締まりを強化した結果、ニューヨークの刑務所は一時的に収監者であふれかえったものの、結局は治安が回復して収監者が激減したというエピソードだ。日本の刑務所も今は飽和状態だが、重要犯罪の手段となる刃物や侵入用具の携帯を積極的に摘発したり、街頭犯罪の取り締まりを強化するなどして犯罪抑止に成果を上げ始めており、いずれはニューヨークと同じように、適正な状態に戻せるに違いないと意を強くしているところだ。
読売新聞 2004年4月22日木曜日 12版17頁 より
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